「もうこんな時間か。お前のおかげでまた一番最後になったじゃねーか」
PM 10時。
がらんとした教室に先生の声が響く。
「また家まで送ってね。先生」
私が机に座ったまま笑顔で言うと先生は呆れたようにため息をついた。
教室にはもう私達しか残っていない。
というか、もうこの教室以外は真っ暗のはず。
大きくも小さくもない予備校。
その建物の中に先生と私だけが残っている。
「ほら。早く帰る支度しろ。オレは見たいドラマがあんだよ」
言いながら黒板に描かれた図形をかなり大雑把に消していく先生。
「一緒に見る!」
「ボケ。子供は早く寝ろ」
「子供じゃない!」
私はむっとして言う。
「オレから見たら十分子供だね」
言い返せなくて唸る私。
25歳から見たら確かに私は子供だろうけど……。
「でも先生。私先生のこと諦めてないからね」
私が真剣な声で言うと、先生は黒板消しを置いてこちらを振り返った。
続ける私。
「だって先生彼女いないんでしょ?私がなってあげるってば」
「それはありがとうございます」
「じゃあっ」
期待の眼差しで私は机から立ち上がった。
「ここやめたら考えてやる」
「ホント!?……でも、他の予備校なんて通いたくないし……行かないとお母さん怒るし……」
「んじゃダメだな」
そのまま、今度は教壇の上を片付けはじめる。
「何で今は考えてくれないの?」
「彼女の金で食ってる男なんてゴメンだ」
「何それ。意味わかんない」
「……お前やっぱ頭悪ぃな」
「それを良くするのが先生の仕事でしょ」
「こっちにも限界がある。つーか、お前ホント早くしろ。置いてくぞ」
言われて仕方なく私も帰り支度に取り掛かったのだった。
「寒っ」
外に出た途端、先生は素早くコートに手を突っ込んだ。
それを後方から見ていた私は思い切って言う。
「手も、繋いじゃだめ?」
すると先生はどきっとするような優しい目をして振り向いた。
そのまま私の頭をぽんぽんと叩いた。
「また子供扱い……」
「いいんだよ。子供なんだから。子供らしくしてなさい」
そして先生は頭にあった手を下ろして私の手をとった。
先生の手はあったかかった。
瞬間、心の中までホンワカした。
「……子供は体温高いって」
私がボソっと言うと、先生は「?」という顔でこちらを見下ろした。
「ううん。なんでもない」
私は笑顔で言った。そして、
「ねぇ、先生。私たちの関係って、『師弟以上、恋人未満』って感じかな?」
言うと、先生はいきなり噴いた。
「なんじゃそら」
「だって友達じゃないし」
「だからって師弟以上って……どんなだよ!」
先生はそのまましばらく笑っていた。
「そんな笑わなくてもいーのに……」
私がむくれていると、先生は急に私の手を引っ張って自分の手ごとコートのポケットに押し入れた。
びっくりして先生の顔を見上げると、先生は意地悪そうな笑顔で見下ろしてきた。
「この方があったかいだろ」
ズルイ。
私の気持ち、受け入れてくれないくせに、そうやって嬉しいことばっかしてくれて……。
「先生」
「ん?」
「約束ちゃんと守ってよ」
「約束?」
「さっき予備校やめたら私のコト考えるって言った。絶対受かるからね。守ってよ」
「さ〜てね……いててっ」
ポケットの中で手を強く握ってやると先生は大げさに痛がった。
「お前なぁ、手追い出すぞ」
「ヤダ」
私はきっぱりと言う。
先生はそんな私を見て短く息を吐いた。瞬間空気が白くなって、消える。
そして、
「ま、がんばれや」
一言、そう言った。
その何気ない一言がどんなに私を元気付けるか、先生知ってる?
「がんばってまーす」
言って、私はちょっと先生に体を寄せる。
まだ恋人じゃないのは寂しいけど、今のこの関係も好き。
師弟以上、恋人未満。
これが私たちの関係。
ラヴラヴ目指しました。
オリジナルで恋愛物を書くのは実は初かもしれません。
ラヴラヴですか?(笑)
itinoさん、もらってやってくださいね♪