『MFS学園物語 合コン編』
『合コン!?』
「そ、合コン♪」
満面の笑みで、アルディートがカウンター向こうで繰り返した。
学校帰り、店に呼び出されていたラグとカノンは少しの間ポカンと口を開けていたが、
「まーたアホなこと言い出しやがって。帰る」
「ちょっ、待てって! 合コンっつってもな、形だけっつーかさ」
「はぁ?」
席を立ち入口に向かいかけていたラグは一応半眼で振り返った。
「ほら〜俺はさぁ、セリーンともっと親密な関係になりてーわけよ。でもセリーンの奴俺の誘い、なっかなか受けてくんないからよ。……なんだ、いつもみてーに皆呼んでさ、ぱーっと楽しく語り合っちゃう? みたいなさ!」
「よーするにオレ達はサクラってことか。……帰る」
「えぇー!?」
「……でも楽しそうかも」
「は?」
それまで黙っていたカノンの小さな呟きにラグは足を止め、アルは目を輝かせた。
「おお!? さっすがカノンちゃん! 話わかるー♪」
「お、おい」
「だって私まだ合コンしたことないし、クラスの子で合コンしたことある子結構いるんだよ! でも皆なんでか私誘ってくれないし……だからやってみたい! それに、アル先輩とセリーンにもっと仲良くなって欲しいし」
「ありがとう〜! カノンちゃんはやっぱイイ子だなぁ〜。……ホント誰かさんにゃ勿体無いぜ」
「……っ!」
最後の言葉は入口付近で突っ立っているラグに向けて。
カノンはその間楽しそうに計画を練り始めていた。
「じゃあ他に誰を誘いましょうか……あ! ライゼちゃんとブライト君も呼んでいいですか!? あとちびラグ君と……」
「ちょっと待った! ちびラグはダメだ。アイツがいたらセリーンは間違いなくそっち行っちまう。それにちゃんと男の数と女の数は揃えないとな」
「あ、そうですよね……えっと、じゃあ……」
「ラグは嫌なんだろ? 残念だなぁ〜。じゃあさ、エルネストせんせー誘おうぜ! カノンちゃん」
「なっ!」
「え! エルネスト先生、ですか? でも、OKしてくれるかなぁ」
ほんのり頬を染めてカノンは考える。
そんなカノンに内心ニヤリとしながらアルは続けた。
「大丈夫だって! カノンちゃんの誘いをあの人が断るわけないって!」
「そ、そうでしょうか……。じゃぁ、エルネスト先生も誘って」
「気が変わった! しょうがねーからオレも参加してやる!」
バンっと真横でカウンターに手を付いたラグに、カノンは目を丸くする。
そしてアルは「してやったり」というふうに口の端を上げた。
「よしゃ! じゃあこれで男3女3でバランスもいいし決定な! じゃあセリーンはオレから誘っとくからよ、ライゼちゃんたちはヨロシクな♪」
「わかりました!」
楽しそうに手を上げるカノンの横で、ラグは一人小さく溜息を付いたのだった。
◆◆◆ ◆◆◆
「合コン、ですか?」
中等部生徒会室の前。目を丸くしたライゼにカノンは笑顔で頷く。
「うん! アル先輩がセリーン先生と仲良くしたいからって! だから私達はオマケみたいなものなんだけどね。だから気楽にさ、いつもみたいに皆でワイワイやろうよ!」
「えっと、他には誰が参加されるんです?」
「ん? 私とラグと、ブライト君も誘う予定だよ♪」
「……」
そこで、彼女は少し考え込むように視線を落としたが、すぐに顔を上げ、
「楽しそうですね! 是非私も参加させてください」
そう笑顔でOKしてくれた。
◆◆◆ ◆◆◆
「ラ、ライゼ様とご、ごごごご合コン!?」
中等部校舎の廊下、真っ赤に染まった顔で思いっきりどもっているブライトを見てカノンは嬉しそうに続けた。
「うん! でも、合コンて言っても、いつもみたいにアル先輩の店で皆でお喋りするだけなんだけどね」
「し、しかしライゼ様がご、合コンになど参加されるはず」
「ライゼちゃんもうOKしてくれたよ! 楽しそうですねって」
「えぇ!? ……で、ですが、私などがライゼ様の」
「ブライト君がOKしてくれないと、もう一人誰か男の子誘わなくちゃなんだよね〜」
「喜んで参加させていただきます!!」
途端きっぱりと答えたブライトに、カノンは内心ほくそ笑んでいた。
(アル先輩とセリーン先生にも仲良くなって欲しいけど、実はこの二人にも仲良くなって欲しかったりして♪)
鼻歌を歌いながら高等部校舎に戻るカノン。
――ライゼが、実は自分と同じ理由からOKしてくれたとは、気付くはずも無かった。
◆◆◆ ◆◆◆
「あ! セリーンか? 俺、俺♪」
『……オレオレ詐欺なら切るぞ』
「ちょっ、待てって! 携帯だぜ、番号出てるだろ? アルだよアルディート! 相変わらずつれないなぁも〜」
『何の用だ』
「合コンしよーぜ合コン!」
『断る』
「わー! 切るな切るな!! 違うんだって! 合コンって言ってもな、オレたちはサクラみたいなもんでさ、他の2カップルを応援したいんだって!」
『2カップル?』
「ラグとカノンちゃん、あとライゼちゃんとブライト! いい加減ここは大人の俺らが何とかしてやらねーとって思ったわけよ」
『……いつだ?』
「今週の土曜日夜6時にオレの店に集合!」
『わかった。……たまにはマトモなことも考えられるんじゃないか。楽しみにしているぞ』
ぷつっ、ツーツーツー。
「よっしゃーーー!!」
アルディートは拳を握り締め歓喜の声を上げた。
――それぞれの思惑を胸に、その日が近付いていた。
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