*ATTENTION*

本編設定を完全に無視したパラレルストーリーです。

【人物設定】

カノン/高等部2年。声楽部。
ラグ/カノンの同級生。剣道部(幽霊部員)
ちびラグ/ラグの弟。小等部5年。

セリーン/教師。剣道部顧問。
エルネスト/謎多き保健医。
ブゥ/学園長

アル/学園OBで近くの喫茶店マスター。



大丈夫そうという方は続きをどうぞ…!









第一話 『いつもの朝』



「あわわわっ! 遅刻遅刻〜!」


 私はカノン。MFS学園高等部2年生。どこにでもいるごく普通の女子高生だ。

 ……でも、普通より少〜しばかり、朝が弱いかもしれない。

 今日もいつものように遅刻ギリギリに家を出て、現在猛ダッシュ中である。

 と、そんなときだ。


 ドンっ!

 

「きゃっ!」

「うわっ」


 角を曲がったところで思いっきり人とぶつかってしまった私はそのまま転倒した。


「いったた……ご、ごめんなさい!」

「いってぇ……ったく、どこ見てやがる――ってなんだ、お前か」


 その良く聞き慣れた低い声に顔を上げると、同じ学園の制服を着た長身の男の子がこちらを呆れ顔で見下ろしてきていた。


「ラグ! おはよう! あー良かった、ラグで」


 ――彼、ラグは私の同級生。

 私が昔、彼の近所に引っ越してきてから、なんだかんだとずっと仲がいい。

 いっつも不機嫌で笑ってるところなんか一度も見たことない気がするけれど、とっても頼りになる男の子だ。


「……って急がなきゃ!」

「何そんなに急いでんだ」

「何って、遅刻しちゃうでしょ! ラグも急がなきゃっ……痛ッ」


 立ち上がろうとして私は小さく悲鳴を上げる。――どうやら転んだ時に膝を擦りむいてしまったらしい。


(もう、かっこ悪すぎ……)


「なんだ? ……血が出てるじゃねーか」

「こ、このくらい平気! それより早く学校行かなきゃ!」

「ったく、しょーがねーな。ほら掴まれ」

「え?」


 目の前に差し出された大きな手の平に驚く。


「負ぶってやるって言ってんだよ」


 ぶっきらぼうにそう言った彼の顔は少し赤い。

 でも、高2にもなって誰かに負ぶってもらうなんて恥ずかし過ぎる!


「だ、大丈夫だって! 学校着いたらすぐ保健室行くから」


 そう言って私はどうにか痛いのを我慢して立ち上がる。

 すると途端に彼が不機嫌になるのがわかった。


「……あーそーかい。とっとと行けよ」

「ラグは? 急がないとまたセリーン先生に怒られるよ!」

「いーんだよ。別にあんな変態センコー怖くねぇし」

「ちびラグ君可哀想! またお兄ちゃんのせいで大変な目に合っちゃうんだ」

「ぐっ……オ、オレには関係ねぇし! ってかオレが何かする度すぐにちびのトコ行くヤツがおかしいんだ!」

「お兄ちゃんがしっかりすればいーんでしょ。ほら行こうよ!」

「オレがしっかりしてもあの変態っぷりは直らないと思うが……」


 私たちの通うMFS学園は他の学校と比べるとちょっと……いや、かなり変わっていて――。


「ぶぅ〜」

「げっ、学園長!」

「学園長先生!」


 うちの学園の何が一番変わってるって、今向こうからふよふよと飛んできた彼(彼女?)、ブゥ学園長先生の存在だ。

 彼はなんと、小さな白い蝙蝠。

 でも皆そのことに不満は持っていない。むしろマスコット的存在として学園の皆に可愛がられている。

 そんなブゥ学園長先生はバツの悪そうなラグの目の前で何やら真剣に語り始めた。


「ぶぶぶぅ〜ぶぶぶ、ぶぶぶぶぅ〜〜っ」

「ぐっ……わーったよ! 急げばいーんだろ急げば! くそー!」

「あはは、ラグって学園長先生の言うことだけはちゃんと聞くんだよね〜」


 と、かったるそうに走り始めた彼の背中を見て笑ったそのときだ。

 キーンコーンカーンコーン、と学園の方から予鈴が聞こえてきて私は青くなる。


「きゃー! 本当に遅刻ー!!」






「はい。これでいいでしょう」

「あ、ありがとうございます!」


 保健室の先生であるエルネスト先生が怪我をした膝小僧に大き目の絆創膏を貼ってくれた。

 先生はとても優しくて、大人の魅力があって……女子生徒に大人気の先生。

 私にとっても憧れの人だ。


「朝からこんな怪我をして、カノンは本当にそそっかしいね」

「あはは、すいません。寝坊しちゃって、急いでいたらラグとぶつかっちゃって」

「クスクス、じゃぁラグも心配しただろうね」

「はい。負ぶってくれるって言ってくれたんですけど、恥ずかしいんで断っちゃいました」

「そう。それはラグも大変だったねぇ」

「え?」


 と、そのときガラっと扉が開いた。


「あ、ちびラグ君!」

「どうしたんだい? 怪我でもしちゃったかな?」

「ガキ扱いするな!」


 ラグの弟であるちびラグ君がズカズカと保健室に入ってきて、そのままベッドにダイブした。


「気分が悪いのかい?」

「あぁ、そうだ。すっげぇ胸糞悪ぃ! だからしばらく寝かせろ」


 言ってすぐにちびラグ君が布団を頭から被ってしまった。


「はぁ。またさぼりかい」

「……」

「またセリーン先生に言いつけるよ」

「だぁ! あいつの名前を出すな! 今日は朝っぱらからアイツに会っちまってすこぶる気分悪いんだよ!」

「あ、そうなんだ」


 私は苦笑する。


「全く君は、本当にお兄ちゃんの悪いところだけ覚えちゃうね」

「違う! あっちがオレのマネしてんだよ!」


 と、また扉が勢いよく開いた。


「あ。セリーン先生」

「げぇ!」

「どうしたんだ!? お前が保健室に行ったと聞いて心配で見に来てやったぞ!」

「頼んでねぇ! く、来るな! ぎゃーー!!」

「どこだ!? どこが悪いんだ!? 言ってみろ! 私が一生看病してやるぞ!」

「どこも悪くネェ! 仮病だ仮病! や、むしろお前のせいで気分悪くなったんだよ!」

「やっぱり気分が悪いんじゃないか! おいエルネスト、何の病気だ! この子に何かあったら私は、私は……!」

「人の話を聞けぇー!!」


 私とエルネスト先生はほぼ同時にはぁ〜と溜息をついた。

 ……セリーン先生はちびラグ君が大のお気に入りなのである。

 でもちびラグ君の方はそんな彼女が大の苦手の様子。

 と、その時また勢いよく扉が開いた。


「あれ? ラグ、どうしたの? 授業は」

「どーしたの、じゃねぇよ! お前がちっとも戻って来やしねぇから迎えに来てやったんだ! まさかこのままサボる気じゃねーだろうな!?」

「え!? 違うよ! 今行こうと思ってたの」


 私は慌ててイスから立ち上がる。


「素直に『心配だったから見に来た』って言えばいいのにねぇ」

「え?」

「うるせぇっ!」


 エルネスト先生の呆れたような言葉にラグが真っ赤になって怒鳴る。

 ――そういえば、この怪我はラグとぶつかって出来たものだった。


「心配してくれたの? ラグ」

「だ、誰が……っ」

「ありがとうね」

「っ! 処置が済んだんならさっさと行くぞ!」


 ラグはこちらに背を向けて再び扉に手をかけた。


「おいこらそこ! 完璧こっち無視してんじゃねー!!」

「あー心配だ! 心配で授業など行く気になれん!!」

「あ。」


 ちびラグ君とセリーン先生のことをすっかり忘れていた。


「あーもういい加減に放しやがれ! おい! てめぇ大事な弟が大変な目にあってるってのに何だその白い目は!」

「何が大事だ……。自分のことは自分でどうにかしろ」

「なんだとぉー!」

「はぁ。セリーン先生。彼は大丈夫ですから。そろそろ本当に授業に行かないと。学園長にまた注意されますよ」

「う……。本当に大丈夫なんだな」

「えぇ」


 エルネスト先生の言葉に漸くちびラグ君から名残惜しそうに手を離すセリーン先生。


「また気分が悪くなったらすぐに私を呼ぶんだぞ。すぐ飛んできてやるからな」

「ぜってー呼ばねぇから安心しろ! ……ったく。ハァ〜」


 セリーン先生が保健室を出て行き、ちびラグ君は大きく溜息をついた。


「ほら。君もさぼってないで教室に戻りなさい」


 と、ちびラグ君の視線がちらりと私に移った。


「カノン。教室まで送ってってくれよ」

「んなっ!」


 ちびラグ君の言葉にラグが可笑しな声を出した。


「そしたらちゃんと授業に出る」

「うん。私は構わないよ」


 私は笑顔で答える。

 昔からちびラグ君は私に懐いてくれていて、私もそれが嬉しくてつい優しくしてしまう。

 それでラグによく「甘やかすな!」と怒られるのだけれど……。


「よし、じゃ行くぞ!」


 ちびラグ君はひらりとベッドから降りると私の手を取った。


「じゃぁな、兄貴」

「ちびラグ君送っていったらすぐ教室戻るから、先に行ってて。あ、エルネスト先生ありがとうございました!」

「いや、お大事に」


 なぜか小刻みに震えているラグを疑問に思いながら私は保健室を出たのだった。






「ラグ、保健室に残してきちゃったけど、マズかったかなぁ?」

「何が」


 ちびラグ君が私の手を引きながら不機嫌そうに聞く。

 やっぱり授業に出るのがイヤなのだろうか。


「ううん。ラグってなんかエルネスト先生のこと苦手みたいだから……」

「あれは苦手じゃなくて、嫌ってんだよ」


 呆れたように言うちびラグ君。


「嫌い? なんで、あんなに優しい先生なのに……」

「……オレも嫌いだ」

「えぇ!? ちびラグ君も?」


 私は思わず静かな廊下で大声を出してしまい慌てて口を塞いだ。

 他の教室は今授業中だ。


「……なんで?」

「なんでって……まぁ、いいや。なぁカノン、聞いていいか?」

「ん? 何?」


 ちびラグ君が足を止め、私の方を振り向いた。


「あの金髪野郎と兄貴と……オレと、誰が一番好きだ?」

「へ?」


 マヌケな声が出てしまった。

 でも、そんな私を見るちびラグ君の目は真剣だ。

 その深く青い瞳に思わずドキリとする。

 きっと、彼はクラスの中でもかなりモテるんじゃないだろうか。


「……今、なんか違うこと考えてるだろ」

「え!? あ、や」


 図星を指され慌てる私に、ちびラグ君は深く溜息をついた。

 こんな仕草は本当お兄ちゃんにそっくりだ。

 とか言ったらきっと怒りそうだから黙っておく。


「じゃあ質問変える。カノンは兄貴のことどう思ってる?」

「どうって……うーん。頼りになる人?」

「頼りに……?」

「うん。ほら、私がこの学園に転校してきたとき……あ、ちびラグ君はまだ小さかった頃の話ね。……その頃にね、家が近いってこともあってラグが色々わからないことを教えてくれたんだ。それからずっとなんだかんだで助けてくれるから……。だから頼りになる人」


 にっこり笑って言うと、ちびラグ君はゆっくりと視線を落とした。


「くそっ……どうしようもねーじゃねぇか」

「え? なに?」

「何でもねぇ! ……じゃあオレのことは?」


 またその目をまっすぐに向けられて私は笑顔で答える。


「ちびラグ君はいい子だなぁって思ってるよ!」


 と、ちびラグ君はなぜかガックリと肩を落とした。


「いい子って……」

「だってちびラグ君いつも私のこと庇ってくれるでしょ? ラグに怒られれてへこんでる時とか……。まぁ、私がしっかりすればいいんだけど、いつもかなり助けられてる。ありがとうね!」

「あ、あぁ……」


 ちびラグ君は照れてしまったのか、また私から視線を外した。


「じゃ、じゃあ金髪野郎のことは?」

「ちびラグ君までそんな呼び方して……エルネスト先生でしょ? 先生は……憧れの人、かなぁ。優しくて、素敵でしょ?」

「どこが! カノンはあの笑顔に騙されてんだよ!」

「えぇ? 騙すって……」

「ったく……そこだけは同情するぜ」

「え?」

「独り言だ。気にするな」


 と、そんな会話をしているうちにちびラグ君の教室についてしまった。


「はい到着! ちゃんと授業受けてね」

「あぁ、ありがとうな」


 手を離し、ちびラグ君が教室のドアに手をかけた。

 私は笑顔で手を振って踵を返す。……と、


「兄貴に伝言!」

「へ?」

「「今に見てろ」って!」

「え? ……あ、うん」


私が頷くとちびラグ君は満足したように教室のドアを開け中に入っていった。


「???」


 私は意味がわからないまま、自分の教室に戻るため再び歩き始めたのだった。


 END.



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