「ぎゃーー!!」 突如、前方から聞こえてきた叫び声に私はぱっと目を開けた。 暖かい日差しとビアンカの優しい乗り心地についうつらうつらしてしまっていたみたいだ。 タチェット村を発ってから5日。 海を突っ切っていればもう目的地であるクレドヴァロール大陸に着いている頃らしいが、いつ休憩出来てもいいようにとなるべく陸地近くを飛んでいるため、結局あと2日ほどはかかりそうとのことだ。 つい先ほども昼食をとるために小さな街に降りたばかり。それもこの眠気の原因のひとつだろう。 (それにしたってビアンカの上で寝ちゃうなんて……それより、) 「どうしたんですか? アルさん」 先ほどの声は彼のものだった。ラグも何事だという顔でこちらを振り返っている。 「お、俺の大切なティコが……」 「ティコ?」 「ティコが全部溶けたーー!」 勢いよくこちらを振り返ったアルさんの手を見てぎょっとする。 瞬間その指にべっとりと血が付いているように見えたのだ。だがよく見るとそれは血の色ではなく黒に近い茶色をしていた。 (チョコ?) そう、それはどう見てもチョコレートだった。更には風に乗ってよく知るあの甘い香りが鼻孔をくすぐった。 そういえばアルさんが服のポケットから何かを取り出し口に入れる姿は何度か見ている。それがチョコと同じものだとして、この暖かさで溶けてしまったようだ。 と、ラグが呆れかえったように言う。 「くっだらね。そんなことででけぇ声出すな」 「そんなこと!? 俺にとってティコは元気の源だって知ってんだろ! ティコがないと俺は……俺は……泣くからな!」 「勝手に泣いてろアホらしい!」 ふんっとラグは前に向き直ってしまった。 アルさんは冗談なのか本気なのかすんすんと鼻を鳴らしながら名残惜しそうにティコの付いた指を口に咥えた。 「なぁ、もしかして、ひょっとして、クレドヴァロールにティコって無いのか?」 「どう考えたって無ぇだろうよ。そうやって溶けちまうんだから」 「……降りる」 「は?」 「俺はここで降りる! そんでティコの代わりになるもんを手に入れる!」 「何アホなこと抜かして――」 ラグが振り返ると同時、目の前で急に立ち上がったアルさんに私はとにかく驚いた。 「わりぃ、少し力借りるぜ。風を此処に……!!」 「え!? だって下って海!」 言い終わらないうちにアルさんはビアンカから飛び降りてしまった。 慌ててその姿を追うと丁度真下に長細い形状の島が見えた。そこに向かってアルさんは落ちて行っているみたいだ。 「あんのアホがぁっ!」 「人のことは言えんだろうが」 背後から聞こえたそんな冷めた声に、なぜか焦るようにこちらを振り返ったラグと瞬間目が合った。でもすぐに彼はバツの悪そうな顔で前に向き直ってしまった。 なんだろうと首を傾げていると、ビアンカがアルさんを追うようにゆっくり下降し始めた。 「ビアンカ、あいつは気にしなくていい。このまま進んでくれ」 「え!? アルさんは?」 「知るか」 「そんな! ビアンカ、このままアルさんを追って!」 私たちの言葉に戸惑うようにビアンカはその島の上空を旋回し始めた。と、 「あれは、パケム島か?」 その妙に上ずった声に後ろを振り向くと、セリーンが興味津々といったふうに島を見下ろしていた。 「パケム料理は絶品と聞くぞ。丁度小腹が空いたところだ。ビアンカ、あのタレメガネを追ってくれ」 「ついさっき食ったばかりじゃねぇかこの大食い女ーー!」 ラグの怒声も虚しく、3対1と判断したらしいビアンカは再び下降を始めたのだった。
パケム島は中央を走る山脈を挟んで片側を密林に覆われ、もう片側の海沿いに街が栄えているようだった。 アルさんはあの街に降りたに違いない。 街に程近い山中にビアンカが降り立つと鳥たちが一斉に飛び立っていった。 着地のときはいつも緊張するが、今回もビアンカは木々の間をうまく縫うようにして驚くほど静かに着地してくれた。 むせかえるような緑の匂いとその熱気はフェルクレールトを思い出させた。 しかしセリーンの言う通りジメっとした蒸し暑さは無く、時折頬を撫でる爽やかな風はほんのり海の香りがした。まさに南の島だ。 「じゃあ行ってくるね」 私が言うとビアンカは答えるようにちろちろと舌を覗かせた。 そしていつもは翼を休めすぐに目を閉じてしまう彼女が首をもたげキョロキョロと辺りを見回し始めた。 もしかしたら彼女もここがフェルクに似ていると思ったのかもしれない。 そんなことは気にも留めずにさっさと行ってしまうラグに気付いて、私は足元に注意しながら追いかける。 彼はすでに上着を腰に巻き、丁度お休み中のブゥを髪の結び目に移しているところだった。無事にくっついたのかラグは手を離し額の布をぎゅっと結び直した。 「ビアンカともう少しでお別れって思うとやっぱり寂しいね」 「そうだな」 応えてくれたのは後ろのセリーンだ。 ラグは全身から不機嫌オーラを漂わせていて、余程アルさんに腹を立てているのがわかった。 確かに予定外の寄り道ではあるけれど、私は妙に浮足立っていた。先ほど上空から見えた海沿いの街がとても綺麗だったからだ。 口に出しては言えないけれど、気分はすっかり観光モードだ。 「ねぇラグ、案外ここでエルネストさんの情報が手に入るかもしれないし、一応街の人に訊いてみようよ」 「言われなくてもそのつもりだ」 その背中に冷たく言われてしまい私はこっそり口を尖らせる。しかしそうしていても仕方がないのでセリーンの方を向いて話を戻した。 「ビアンカとお別れしたら、やっぱり船とか使うことになるんだよね」 「クレドヴァロール大陸に着いてしまえば他の国への移動は随分楽になる。まぁ、また他の大陸に移動するのであれば船を使うことになるだろうが」 「そっかぁ。そういえばレヴールって大陸いくつあるの?」 「今は4つだ」 「今は?」 「あぁ。世界は広いからな。ひょっとしたらこの旅の間に新大陸を見つけてしまうかもしれないぞ」 言われて納得した。 魔法のような不思議な力は存在するのに電気はまだ無く地球で言う中世期を思わせるこの世界。 見つかっていない大陸が複数あってもおかしくはない。 「船旅って大変そうだし、早くエルネストさん見つかるといいね」 「私はこのまま永遠に見つからなければいいと思っているが」 「そ、そうだったね」 慌てる。そういえばセリーンはラグが呪いを解くのを阻止するためにこの旅に加わったのだった。 距離的に考えてラグにもこの会話は聞こえているはずだが、彼は敢えて聞こえないふりをしているのか、それとも耳に入らない程にアルさんに腹を立てているのか何も言ってはこなかった。 「だがカノンが早く元の世界へ戻れるよう願ってはいるぞ」 「!」 「その意味では早くあの男が見つかるといいな」 「うん、ありがとう。セリーン」 心がほんわかあたたかくなってお礼を言う。でも、 「――しかし、そうなったらカノンとは二度と会えなくなるのか。それはそれで寂しいな」 そう言って目を細めたセリーンにチクリと胸が痛んだ。 そうだ。今まで早く帰りたいとばかり考えていたけれど、そうなったらセリーンやラグとは二度と会えなくなるのだ。 気が付けばこのレヴールに来てからそろそろ一ヶ月が経とうとしている。 元の世界へ戻るということは、この一ヶ月ほとんどずっと一緒にいるこの二人と別れるということ。――たった一ヶ月だけれど、これまでの人生でこんなに濃密な一ヶ月は無かった。 彼女に何か返そうと口を開いた時だ。急にセリーンが鋭く茂みの中を睨んだ。 ぎくりとして振り返るとラグも足を止め、いつでもナイフを抜けるよう腰に手を当てていた。 「なに? も、もしかして」 「あぁ」 そして聞こえてきたのは、グルルルという低い唸り声だった。 威嚇するように牙をむき出しにし肩を怒らせのっそりと茂みから姿を現したのは、ヒョウやジャガーに似たいかにも獰猛そうな金の毛並みのモンスターだった。 (きっと赤ちゃんの頃は可愛いかったんだろうけど……) 猫を思わせる長い尻尾を見ながら一瞬そんなことを思ったが、残念ながらどう見ても立派な成獣だ。 そしてヒョウやジャガーとはっきりと違っていたのは、眉間に突き出たまるでユニコーンのような一本の角。 ラグとセリーン、二人の強さを知っていても恐怖を感じるに十分なモンスターだった。 ――そんな状況でだ。硬直していた私の肩を優しく叩き前に出たセリーンが、ラグに向かってとんでもないことを口にした。 「貴様一人でなんとかしろ」 「え!?」 「術を使えばすぐに済むだろう」 あ。そういうことかと私はすぐに理解した。 セリーンはラグに術を使わせ、小さな彼に会いたいのだ。 そういえばアルさんが旅に加わってからラグはまだ一度も術を使っていない。 ビアンカが降りる場所は人目の付かない森の中などが多いためこれまでも何度かモンスターに遭遇しているが、セリーンが危惧していた通りアルさんがすぐに術で片づけてしまうのだ。 ラグの表情はここからではわからないが、舌打ちだけはしっかりと聞こえてきた。 彼が体勢を低くしながらゆっくりとナイフの柄を掴んだのを見て、今度はセリーンが小さく舌打ちをする。ラグは術を使う気は無いようだ。 彼と金色のモンスターとの距離はざっと3メートル。セリーンのような長剣ならともかく、刃の短いナイフで太刀打ちできる相手だろうか。もしあの角で刺されてしまったら……そう思ったらぞっとした。 「だ、大丈夫かな」 「傷を負っても奴には癒しの術があるからな。どちらにしろ、カノン」 「え?」 「歌うなよ」 笑顔で、でもすこぶる低い声で言われて、私はこくこくと頷くことしかできなかった。 その時だ。鋭い咆哮が上がり視線を戻すと今まさにモンスターがラグにその鋭い両爪を向け飛びかかろうとしていた。 思わず声を上げそうになるが、ラグは横に跳んでそれを避け、標的を失ったモンスターは音も無く着地しすぐにまたラグに向かって牙を剥き飛びかかっていく。 ラグはそれも寸前で避けつつ今度はナイフを振りかざしモンスターの腹に斬りつけた――ように見えたが、モンスターもまた身体を上手くひねって刃を避け優雅に着地した。 再び距離をとって対峙する両者を息をするのも忘れて見守っていると、セリーンが呟くように言った。 「術を使わんと死ぬぞあの男」 「!?」 「なかなか強敵のようだからな」 見ると確かにラグの顔には焦りが浮かんでいた。 「ラグ、術使って!」 「うるせぇ!!」 その罵声と共に彼は動き、モンスターもまた彼に向って跳んだ。――そのときだった。 ピィーという高く澄んだ音がどこからともなく聞こえてきて、その途端モンスターは身を翻しラグから離れた場所へ着地した。そしてくるりと背を向け元来た茂みの中へあっという間に消えて行ってしまった。 「なんでだ!」 一番に叫んだのはセリーンだ。 ラグも少しの間モンスターの消えて行った茂みの向こうを睨んでいたが、短く息を吐くとナイフを腰に戻した。 敵意むき出しだったモンスターがなんでああもあっさり立ち去ってしまったのか疑問は残ったが、私にはそれ以上に気になることがあった。 「今の音って、笛?」 「ふえ?」 緑の天井を見上げながら言うとラグが額の汗を拭いながら不機嫌そうに訊いてきた。 「うん、笛っていう楽器……なんだけど」 言いながら私は気がついた。 歌が不吉とされるこの世界。だからこの世界の人たちは音楽自体嗜まないのだと勝手に思い込んでいたが、楽器が無いとは限らないのだ。 でもラグはやはり楽器と聞いてもピンとこないのか、ただ眉を寄せるだけだった。 「なんにしろ、野生のモンスターってわけじゃなさそうだな」 「うん、あの音が何かの合図だったんだよね、きっと」 「……面倒なことにならねぇうちにさっさと街に行くぞ」 ラグは警戒するように辺りを見回しすぐに歩きだした。 折角のチャンスがモンスターと共に消えてなくなり完全に目が据わっているセリーンにこっそり苦笑して、私も小走りでラグの後を追った。
「わぁー!」 幸いそれからモンスターに遭遇すること無く街に入ることが出来た私たち。 思わず声が出てしまったのは、建ち並ぶ家々が水色やピンク、黄色などとてもカラフルだったからだ。 そして道行く人達も色鮮やかな服を身に纏い、しかも皆露出度が高く色々な意味で目がチカチカした。 元々薄着なセリーンはともかく私とラグは完全に浮いてしまっていたが、常に観光客で賑っている街なだけあってすれ違う人達に特に気にする様子はなかった。 この島も、海を遠く隔ててはいるが一応クレドヴァロール王国の領土らしい。しかし島民にその意識は薄く、昔から島独自の文化や産業によって発展してきたのだという。 今にも陽気な音楽がどこからか聞こえてきそうな、まさに観光地に相応しいとても明るい雰囲気の街だ。 (なのに……) そんな楽しげな街中を、ラグは相変わらずの険しい表情で足早に進んでいた。 露店に少しでも目を奪われていたらその間に置いていかれそうだ。私は少し息を上がらせながら声を掛ける。 「アルさん、どこにいるんだろうね。チョコを探しに行ったってことは、お菓子屋さん?」 「ティコだ」 視線を巡らせながらもラグはすかさず指摘してきた。 「あ、つい……。あのね、私の世界でもティコと似たお菓子があって、それがチョコっていうの」 「そうなのか。ティコは正式にはティコリートというんだ」 そう教えてくれたのはセリーンだ。 「チョコもチョコレートっていうんだよ。やっぱなんか似てるね!」 「フェルクレールトでテテオの実の農園があったのを覚えているか?」 「うん、甘いお菓子になるっていう……あ、もしかしてテテオの実がティコになるの?」 私が少し興奮気味に言うとセリーンが頷いた。――やはり似ている。チョコレートもカカオの実から作られる。 (じゃあ、アルさんがさっき食べてたティコもフェルクの皆が頑張ったから出来たんだ) ライゼちゃん達フェルクの皆の顔が浮かび、知らず笑顔になっていた。 「私も食べてみたいなぁティコ」 「前に食べただろうが」 ラグに言われきょとんとする。するとこちらは見ずに彼は苛ついたように続けた。 「ルバートでやっただろ」 「……あ!」 そうだ。ルバートで確かに私はラグからチョコをもらった。――あれがティコ! 「だったらやっぱり同じだよ!」 こんなところに共通点を見つけてなんだか嬉しくなる。 (そっかぁ。アルさんチョコが大好きなんだ。……あれ?) 「そういえば、ラグが前にそのお菓子がすっごく好きな人がいるって。もしかしてそれって」 「あいつのことだ。昔っからティコが無くなると大騒ぎしやがって」 心底鬱陶しげに言うラグ。 「そうだったんだ。私てっきり……」 「あ?」 「う、ううん。何でもない」 (……あんなに怒ってたから、てっきり女の子かと思ってた) フェルクでの彼の行動を思い出しながら私は心の中でこっそり呟いた。と、その時だ。 「おーい! こっちだこっち。遅いぞー!」 声の方を向くと、すぐそこの店の前で派手な衣装に身を包んだアルさんが笑顔で手を振っていた。 この短時間で完全に街に溶け込んでいるアルさんに小さく驚きつつラグの後に続く。 怒声が響くだろうと予想はしていたが、ラグは近寄りざま無言でアルさんの顔面に拳を突き出し流石にぎょっとした。しかしアルさんはその拳を難なく掌で受け止め言う。 「なんだよいきなり。びっくりすんだろ〜」 「こっちの台詞だ! いきなり飛び降りやがって!」 怒鳴りながらラグはアルさんの手を乱暴に振り払った。 「仕方ねぇだろ〜? ティコが食べられねぇって知って居ても立ってもいられなかったんだって。お前だってこないだカノンちゃんが見つからなくっでぇ!!」 悲鳴を上げアルさんはしゃがみ込んでしまった。……ラグの蹴りが脛に入ったようだ。 「私が、なに?」 「何でもねぇ!」 ラグの顔が心なしか赤い。と、背後からその答えが返って来た。 「カノンとあのグラーヴェ兵を追っているときにな、そいつもビアンカから飛び降りたんだ」 「え?」 「そうそう、俺と同じで居ても立ってもいられなかったんだよな?」 「うるせぇ!!」 しゃがんだままこちらをにっこり見上げたアルさんに、ラグはもう一度はっきりと赤い顔で怒鳴った。 ――ラグが取り乱したとは聞いていたけれど、そのときのことだろうか。 だとしたら、とても嬉しい。 「ありがとう、ラグ」 私も少し照れながら言うとラグは一瞬だけその赤い顔をこちらに向け、すぐに視線を戻しアルさんの脳天に拳を振り下ろした。 それを慌てて避けつつアルさんはぴょんと立ち上がる。 「あっぶね! ったく、先輩は敬えっていつも言ってるだろ〜っと、そうだそうだ。お前その格好じゃ暑ぃだろ? 俺がコレ買っといてやったから着替えちまえよ」 ラグは差し出された包みを乱暴に受け取り中を見た。 「カノンちゃんとセリーンの分も買っといたから。きっと似合うと思うぜ」 ウインクしながら手渡されお礼を言ったが、すぐに後悔することになる。 「む、無理ですこんな格好!」 確かに暑かったけれど、包みから出したどう見てもビキニな衣装を見て私は首を大きく横に振る。確かに街行く女性の中にはそういう格好の人もいたけれど、泳ぎに来たわけでもないのにこんな格好は出来ない。 「大丈夫だって、絶対可愛いって! な、ラグもそう思うだろ?」 「知るか!」 「私は今の格好で問題無い」 「え〜折角セリーンにも似合いそうなの買ったのになぁ〜」 「ふざけんな!」 そこで怒り出したのはセリーンではなく、ラグだ。包みを投げ返し続ける。 「てめぇ、まさか観光目的で降りたわけじゃねぇだろうな」 「違うって。言ったろ、俺はティコを、もしくはティコの代わりになるような甘〜いお菓子を手に入れるために降りたんだって」 「それで見つかったんですか?」 さりげなくビキニな衣装を仕舞いつつ訊くと、アルさんは急にガクンと肩を落として首を横に振った。 「それがさ〜聞いてくれよ。なんかお菓子だけを狙った盗賊が出るとかでなかなか置いてる店が無くってよ。やっとあるって店を見つけたんだけど、子供にしか売らねぇっていうんだぜ」 その言葉にラグの眉がぴくりと跳ね上がった。 「ってことでラグ、お前が来るのを待ってたってわけだ」 「断る!!」 調子良く肩に乗せられた手を容赦なく叩き落としてラグが怒鳴る。 「え〜」 「え〜じゃねぇ! 無いなら無いで諦めろ!! オレはさっさとクレドヴァロールに行きてぇんだよ!」 「わかってるって。だから、今お前がパっと小さくなってくれりゃお菓子も手に入ってすぐにまた出発出来んだろ?」 「そうだ、さっさと術を使ってしまえ」 セリーンまでもが目をキラキラさせて加わりラグのこめかみに血管が浮かぶのが見えた。 「てめぇらはこんな時だけ息合わせやがって〜〜」 「あ、でもよ。その賊のことでちと気になる噂を聞いたぜ」 「噂?」 急に神妙な顔つきになったアルさんのその話に、私たちは息を呑むことになる。 「その賊に、金髪の高貴そうな男が囚われてるらしいってな」 「!!」 |